魔法少女マジカル☆りぐるん

真っ黒な世界。
どこからか声が聞こえる。

「命を失いし者よ、力が欲しいか」


……。


「その身をもってもう一度だけ生き返る力が欲しいか」


あー。
ただより高いものはないって話だけど。
貰えるものは貰う性分だし。
お願いします。

声は、急に明るくなった。


「了解した。さあ、リグル・ナイトバグよ。
魔法少女として華麗に生まれ変わるのです!」

これって、あのさあ……。
どちらかというと、敵役の生まれ変わり方じゃないか。

ああ、眠い。

私は、意識を手放した。



全身に感じる違和感で目を覚ますと、真っ白な天井が目に飛び込んできた。
どうやら、ここは病院かどこかであるようだ。
顔を少し動かして、自らの腕を眺めてみる。
違和感の正体は、全身につながれたチューブであるようだ。
痛む体を力を込めて起こす。

「あ!目覚めたのね」

声の方向を見ると、一人の白衣を着た女性が視界へと飛び込んできた。
彼女は、読んでいた資料を机の上に置いた。

「いやー、幻想郷にやってきて始めての実験だったけど。
無事に成功したみたいでよかった。体の調子はいかが?」
「少し体が重いですけど、別に問題ないです」

女性はうんうんと満足そうに頷くと、
私のほうに近寄ってきて、私の全身についているチューブを丁寧にはずした。
そして、私の手首を1分間ほど握ってから自らの机へと戻った。

「ふむ、脈は問題なし。体温も正常、と」

調査書のようなものに色々と書き込む女性に、
私は質問をぶつけてみた。

「あたなは、何者なんですか?」
「よくぞ聞いてくれました。私は、岡崎夢美。
科学と魔法の融合を目指す科学者よ」
「なんで私を魔法少女なんかに改造しようと」
「いや、たまたま海に浮いてるのを見つけたから。
回収したらぎりぎり生命力が残ってる感じだったし。
一応同意も取ったわよね?」

私は、こくりと頷いた。
確かに同意といえば同意か、魔法少女にはふさわしくなかったけど。
しかし、海に浮いていた、ということか。
一体どんな理由で海に私の体が投げ出されていたかは全く思い出せない。
いわゆるショックによる記憶喪失と言う奴であろうか。

「あら、何故海に浮いていたかですって?
私は別に知らないわよ。その内思い出すんじゃない?」
「まあ、別に構わないのですけど。
ていうか、そもそも魔法少女ではなく普通に治療するという方法は無かったのですか」
「だって私は医者じゃないし。魔法少女って響きがいいじゃない!」

私は、大きなため息を付いた。
なんというか、素晴らしく常識が通用しない人だ。
この幻想郷で常識を求めるのは酷という物かもしれないが。
教授は、聞いてもいないのに語り続けた。

「命を失いかけていたところを拾われて、
改造されて魔法少女として生まれ変わる少女!
なんと甘美な響きであろうか!」
「いや、それって魔法少女じゃないですよね」

それは○○○ダーとか○○○○ダーとかの特撮側である。
番組放送時間が30分ほどずれてる。

「さて、とりあえず変身の仕方を教えましょうか。
『まじかるりりかるりぐるんるん、変身!』って言ってね」
「えっと、えっと、もっと恥ずかしくないセリフは無いんですか」

それ言うと色々と人生が終わりそうな気がする。

「うるせー!うじゃうじゃ言わずに変身しろー!」
「いや、変身したくないわけじゃないですけど、
そのセリフで変身するのは非常に恥ずかしいから!
ていうかもっとましなセリフは無かったんですか!」
「私が外の世界から持ち込んだ知識を馬鹿にするの?
こういうのは奇をてらわずに王道がいいのよ」

私は、10分ほど口角を飛ばして議論し続けたが、
ついに折れて(主に心が)、変身することにした。
私は、ベッドから起き上がり床へと立った。
そして、息を大きく吸い込んでから言った。

「まじかるりりかるりぐるんるん、変身!」

突然私の全身が光へと包まれた。
私の全身の服が破けて、光の粒子へと変換される。
その粒子が少しずつ形を成していき、私の衣装を作り上げた。
この間僅か0.5秒。
次の瞬間には、私は魔法少女の姿でそこに立っていた。
目の前にいつの間にか用意されていた鏡を見てみる。
突っ込みどころは2つ。

「なんで上半身裸なんですか?」
「露出の高さがエロさに繋がるのです」
「わかりました、それは許します。
それじゃ、なんで肉棒が私の股間から生えているのですか?」

股間に感じる独特の違和感。
変身前には無かったソレが私の股間で自己主張していた。
教授は、照れ笑いをしながら答えた。

「趣味です☆」

私は、思い切り蹴りを繰り出した。
なるほど、蹴りのキレも一段と上がっている。
これが魔法少女の力なのであろう。
教授の体は、盛大に壁へと叩きつけられた。


霧雨魔理沙は、焦っていた。
新しい魔法が、どうしてもうまくいかない。
それだけが彼女の心を重く苦しめていた。
彼女は、もう一度理論を見直してみて、術に間違いが無いかを確認し、
実験を繰り返したが、成功することは無かった。

「ちくしょう、どうして上手くいかないんだよ」

嫌気が差して、八卦炉を床へと叩きつける。
そして、逃げ出すようにベッドへと倒れこんだ。

『どうして、努力を続けてるんだ?』

心の中の自分自身が魔理沙へと語りかける。

「私は、いつかあいつらを超えたいんだよ。
人間として、魔法使いとして」
『殺せよ。
殺せばお前のほうが上じゃないか』
「そんなことできるわけないだろう!」
『結局お前は人間である以上、
あいつらとは同じフィールドに立つことはできないんだよ』
「うるさい、うるさい!」
『さあ、魔法なんかよりもっと良い力があるんだよ。
それに身を任せてしまえよ、私が案内してやるぜ』

心の中の黒い影が、魔理沙の体を少しずつ支配していった。

「ふう、やっと乗っ取れたぜ。
あーあー、テストテスト、俺は霧雨魔理沙だぜ。
うん、問題ないな」

その「霧雨魔理沙」は、一つ伸びをすると玄関から外へと出て行った。

「さて、こいつの願いをかなえてやるかな。俺からのせめてものお礼と言う奴だぜ」


「せめてこのちんこだけでも切り取ってくださいよ!」
「おちんちんが嫌いな女の子なんていません!」
「いや、それはちんこ付けたいって意味ではないでしょう!?」
「ちなみに射精すると変身が解けます」
「何ですかそれ!めっちゃ弱点じゃないですか」
「触手に襲われた挙句に『らめぇ……変身解けちゃうよう……』
と責められるまじかる☆りぐるんのエッチな画像を希望します」
「そんな生々しい妄想やめて!」

そんな会話の矢先に、私の触覚がキラキラと光りだした。

「あれ、なんか光りだしたんですけど」
「おっと、そいつはこの近くで血が流れたことを示すための合図。
つまり、魔法少女の出番と言うわけ」
「なるほど」
「さあ行くのです、まじかる☆りぐるん。幻想郷の平和のために」
「いや……よく考えたら私が平和のために戦う理由って無くないですか」

私がそう突っ込むと教授は黙り込んだ。
今までとは一転して、急に深刻な表情で教授は語る。

「……まあ、それもそうね。強制はしないよ」
「じゃあ、別に戦わなくてもいいんですか」
「ただし、その触覚が光り続けるのを黙ってみていられるなら、ね」

「……わかりましたよ」

私は、出入り口のドアへと歩き出した。

「そーだ。ちなみにこの建物はステルス状態だから他の人には見えないよ。
変身状態なら見えるようにしてるけど」
「それでは、行ってきます」

私は、ドアを開けた。
空が眩しい。
私は、触覚が私に伝える方向へと飛び立った。


「あら、いらっしゃい魔理沙
「ああ、遊びに来たぜ」
「何の用?」
「ん、なんというかな」

霧雨魔理沙は、八卦炉を霊夢へと一瞬でかざし、
そこから高出力のエネルギーを発射した。
霊夢の体が、神社を突き抜けて反対側へと吹き飛んだ。

「お前が憎らしくてさあ」

彼女は、崩壊した神社を歩きながら霊夢のほうへと向かう。
反対側の境内に、霊夢は倒れていた。

「どう……して」
「ごめんな霊夢。私はこうでもしないとお前を超えられないんだよ」

霊夢は、火傷の傷が痛々しく残る頬に一筋の涙を流した。

「さて、その痛々しい姿じゃかわいそうだから、そろそろ殺してやる」

魔理沙は、手に持っていたバッグから包丁を取り出した。
丁寧に刃こぼれが無いかを確かめ、霊夢の胸の上へと振りかざす。

「あばよ、霊夢

振り下ろそうとした、その瞬間。

「そこまでよ、悪党!」

一人のはしたない姿をした魔法少女が、博麗神社へと降り立った。
霧雨魔理沙が、振り向いて笑いながら言う。

「おっと、リグルじゃないか。どうしたんだよそんなはしたない格好をして」
「はしたない格好って言うな。魔法少女の正装よ」
「ははははは!魔法少女なんて傑作だな。
で、どうするんだ。ここで私を殺すのか?」
「さあね。説得に応じないならそうさせて貰おうかしら」
「ああ、悪いが応じる気は無い」

そう言って、八卦炉をかざした魔理沙の手に、リグルが蹴りを入れた。
べきっ、という心地よい音を立てて魔理沙の手の骨が粉々になった。
魔理沙は思わず八卦炉を落とし、地面へと転がった。

「ぐあああああああ!痛い、ちくしょう。
そんな武等派の魔法少女があるかよ!」
「仕方ないじゃない。魔法を習ってないのだもの」
「ああああああああああ、糞が!だから俺は人間なんかに乗り移りたくは無かったんだ。
やっぱり人間は脆すぎるんだ!もういい、今日のところはここで撤退してやるよ!」

そう言うと、魔理沙の中から黒い何かが抜け出して、大気中へと四散した。
魔理沙の体が、その場へと倒れこむ。

「ふう、悪は去ったわね。とりあえず、この場の後処理をどうしようかしら。
ステッキを振ったら、きらきらーとか言って怪我が治るわけでもなさそうだしね」

リグルは、二人の少女を抱えて永遠亭へと向かって飛んでいった。


「目が覚めた?魔理沙

私が目を覚ますと、アリスが林檎を剥いていた。
どうやら、ここは病院であるらしい。

「ん、どうして私はこんなところに寝ているんだ」

私がそう言うと、アリスは俯いて黙ってしまった。
私は、そんなアリスの態度が気になったので、しつこく問いただしてみた。
すると、アリスは「魔理沙、今から私の言うことは本当だけど、絶対に驚かないでね」とお決まりの前置きをして語りだした。

「うそ……だろ」
「本当よ。本当だけど、あなたは悪くないわ」
「なあ、嘘だといってくれよアリス」
「私だって信じたくないわよ!
でも、霊夢は生きているしあなたも無事だった、それでいいじゃない!」

私は、いつの間にか涙を流していた。
そして、自らの弱さが悔しくなって拳をベッドへと叩き付けた。

「とりあえず魔理沙。誰かにあんたが目覚めたことを伝えてくるから」

アリスはそう言って、部屋から出て行った。
私は、何度も何度も拳を叩き付けた、そして。


霧雨魔理沙さん。気分はいかが――」

えいりんのかおがおどろきにゆがむ。
そして、いっしゅんあとにひめいがひびきわたる
あわててはいってきたありすのかおがあおくそまる。
そして、わたしのもとへとかけよって、なにかをいっている。
すこしずつかんかくのすいっちがきれていってる。
そのせいでなにをいってるかよくきこえない。
すこしずつしかいもしろくなっていく。
ごめんなさいありす。
ごめんなさいれいむ。
ごめんなさいみんな。