割りと色んな人から褒められた奴(元タイトル忘れた)

私は、走っている。
いや、正確に言うと逃げている。
私は、見てしまったのだ。
そう、私が、私自身が追いかけてきている。
人里での買い物を終えて、家に帰る途中の道。
急に、目の前に私が現れた。

「だ、誰!?」

その「私」はにやりと笑って答えた。

「私よ、アリス・マーガトロイド

「自らのドッペルゲンガーに出会ったものは死ぬ」
そんな言い伝えが頭の中をぐるぐると駆け巡り、私はいつの間にか駆け出していた。
逃げ続けたところで、意味があるとは思えない。
しかし、逃げないと死ぬ。そんな不安が私を襲う。
どうも、向こうの速度は私と同じようで、
このまま走り続ければ、先に私のほうが家に着く。
私は、10分ほど走り続け、我が家へと逃げ込んだ。

さっと扉を閉め、鍵を掛ける。
さらに、緊急避難用の魔法陣を展開させて、人形を自らの周りへと集める。
しばらく間があって、どんどんどんと扉が叩かれる。

「早く出てきて頂戴よ、アリス……の偽者さん。
私こそが本物のアリス・マーガトロイドなんだから」
「何を言ってるの、私が本物のアリス・マーガトロイドよ!?」

私のその言葉が笑い話か何かであるかのように、
そいつはけたけたと高笑いを上げる。

「ねえ私、霧雨魔理沙のことは好きかしら?」
「……何の話よ」

なぜ、ここで霧雨魔理沙のことが話題に上るのだ。
永夜異変の時は、確かにパートナーとして異変解決に挑んだ。
しかし、別に特別な感情を持っているわけではない。
むしろ、勝手に魔道書を借りられて少し迷惑しているぐらいであった。
私は、扉の向こうのそいつへと答える。

「別に、ただの魔法使い仲間よ」
「その言葉を待っていたわ」

そいつのその言葉には、今までとは違う何かが、
言うなれば、冷たさとか残虐さとか言われる何かが含まれていた。

「はは残念ねアリスさん。
残念ながら『皆さん』が求めている『アリス』はそれじゃあないの」

そいつは、まるで亡霊か何かのように、扉をすり抜けてこちら側へと入ってきた。
勝ち誇った笑顔で語るそいつは、もはや狂気の象徴のようだった。

アリス・マーガトロイドは、霧雨魔理沙が大好きで、
魔理沙を奪うためにはどんなことでも、たとえ誰もが眉を潜める、
いわゆる変態的な手段であっても選ばずに使う存在のはずよ。
それが『ただの魔法使い仲間』なんて答えるなんて……。
あなたは、本当に『アリス・マーガトロイド』なのかしら?」

わからない。何を言っているのわからない。考えたくも無い。
霧雨魔理沙を?奪うためには?手段を選ばない?
変態的な方法でも?
わからない。そんなことは考えたこともない。
悪い冗談だ。そうだこれは夢なのだ。

「いつも、孤独を紛らわしたくて、そのために誰かを求めている。
その割には、かなり平気で自分の恋の障害をあらゆる手段で取り除く。
本当に、本当に私は駄目だわ」

私は、首を振って呟く。

「夢なら覚めてよ」

だが、何度首を振ろうとも、何度頬を抓ろうとも、
目の前のそいつは消えなかった。

「残念ね、私の忠告が受け入れられないなんて。 
ならば、しょうがない。あなたのためにも私が代わってあげるわ」

そう呟いて、そいつは私の中に入っていった。
私は、つま先から少しずつそいつの色へと染められていった。
薄れ行く意識の中で、私はこれは夢に違いないと思い続けていた。




「全員、そろったようね」
「おう、俺の方もこっちもちゃんと"終わった"ぜ」
「まったく、苦労しましたわ」
「うー!うー!」
「僕のほうも終わったよ」

次々に集まっていく影。
それは、みんながよく知っている人物で。
それでいて、誰もが知らないようなカタチをしていた。